若田宇宙飛行士によるETS-VII搭載ロボット遠隔操作実験結果

平成11年3月16日に実施された若田宇宙飛行士によるETS-VII搭載ロボットアーム遠隔操作実験の結果の概要を以下に示します。なお、詳細な結果は学会等への論文発表として行います。

1999/03/23

(1)訓練結果

(a)全般

若田飛行士のNASAにおける業務の合間を縫っての訓練/実験であったため、若田飛行士は3月11日に帰国し、3月16日の実験終了後、直ちにヒューストンに戻る日程となった。そのため、訓練に当てることができた時間は、3月12日(金)、同15日(月)の2日間の午前中3時間、午後3時間の計12時間のみであった。

(b)訓練内容

この時間内で、ETS-VIIのロボット実験システムの講義、NASDA、NAL、CRLの各機関のロボット実験運用設備の操作、及び各機関の実験内容への習熟が必要であった。一方、若田宇宙飛行士はスペースシャトル搭載マニピュレータの操作に習熟していること、及び同マニピュレータへの操作訓練等を通じてロボットに関する知識を有していたこと、及びETS-VII搭載ロボットアームの遠隔操作手法はNASDA、NALのロボット実験運用設備に関する限り、スペースシャトル搭載マニピュレータの操作と同様に2本のハンドコントローラを使用する(左手でロボットアーム先端の並進速度を指示する3自由度のコントローラを、右手でロボットアーム先端の回転速度を指示するコントローラを操作する)ことから、訓練は、実験内容、ETS-VIIロボットシステム固有のロボットアーム先端の発生力制御の方法の説明、及び実験運用設備を使用した遠隔操作手法の習熟に当てた。

(c)訓練成果

非常に限られた時間での訓練ではあったため、遠隔操作への習熟が満足いくレベルに到達できるかどうかの心配も訓練開始前にはあったが、2日間の訓練ででも遠隔操作に関しては問題なく作業ができるレベルに達することができたとのコメントが若田宇宙飛行士からあった。若田飛行士がスペースシャトル搭載マニピュレータの熟練したオペレータであったこと、及び実際の実験で使用する実験運用設備を使用しての訓練が行えたことによるものと考えている。


NASDAのロボット実験運用設備を使用した訓練の様子
(3月15日午後)

ETS-VIIのロボット実験運用設備は内部に衛星搭載ロボットシミュレータを持っており、実際の実験時と全く同じ操作ができ、その際のシミュレータからの応答(テレメトリデータ)も本番時と同様である。

訓練内容

(2)実験結果

(a)全般

若田飛行士によるETS-VII搭載ロボットアームの遠隔操作実験は平成11年3月16日(火)に実施した。実験は、TDRS経由の可視時間帯(パス)を5パス使用した。なお、予備として6パス目も用意していたが、実験が順調であったため、予備パスは他の実験(協調制御実験)に充当した。
実際の実験時間、実験内容は以下の通りである。
可視帯 時間 実験内容
1 04:34 - 05:16
(NASDA実験)
ロボット動作準備
タスクボード操作用ツール取付け
(若田MS)遠隔操作によるアーム先端のマーカへの位置姿勢合わせ
06:17 - 06:59
(NASDA実験)
(若田MS)遠隔操作によるタスクボード倣い作業用曲面へのロボットアーム先端の押し付け・ならい作業
・1回目:ロボットアームをコンプライアンス制御モードとして実施
・2回目:ロボットアームを力追従制御/動作速度自動制御モード(レートホールド)で実施。
07:58 - 08:40
(NASDA実験)
タスクボード操作用ツールの取外し/収納(自動操作で実施)
(若田MS)遠隔操作でタスクボード表面の目視検査を実施
09:39 - 10:21
(NAL実験)
(若田MS)遠隔操作によるトラス構造物実験装置の折り畳み収納
11:20 - 12:02
(CRL実験)
CRL要員により自動操作でアンテナ結合機構基礎実験装置をロボットアームで脱着する作業を若田MSは監視。その際の視線移動、自動生成の音声によるアラームの有効性等を評価
6(予備) 13:02 - 13:44 遠隔操作実験は正常に終了したため、他の実験(衛星搭載ロボットアームと衛星姿勢の協調制御実験に充当)

(b)NASDAの実験内容

ETS-VIIのロボット実験システムは、スペースシャトル搭載マニピュレータを第一世代の宇宙ロボットとすると、第二世代の宇宙ロボットと言える以下の特徴を持った宇宙ロボットである。

NASDAの実験は、ETS-VII搭載ロボットの上記の特徴が活かされる様に、遠隔操作では以下の実験を行った。

(c)NASDAの実験結果の評価

遠隔操作によるロボットアーム先端のマーカへの位置・姿勢合わせ
ETS-VIIの場合、地上の実験運用設備と衛星搭載実験機器との間には、往復で6秒程度の通信時間遅れがある。しかしながら、CGによる予測シミュレーション等の使用により通信時間遅れがある状態でも効率的に実施された。また、若田飛行士からは、各種の操作用スイッチの配置等の細かい点の改善について宇宙ロボット操作のベテランらしいコメントを頂いた。
タスクボード表面(倣い作業用曲面)へのロボットアーム先端の押し付け・倣い制御
ETS-VIIのロボット実験運用設備には、ロボットアームの先端に発生するであろう力を予測的に数値表示する機能をETS-VIIのロボット実験運用設備は持っているが、今回の実験では本機能は使用せずに、衛星からの実カメラ画像、発生力・トルクの実データ、ロボットアーム先端の位置・姿勢の予測値/CG画像を提示して作業を行った。一回目の実験では、ロボットアームをコンプライアンス制御モードとして、2回目は、ロボットアームを力追従制御モード(ロボットアーム先端の発生力を一定範囲内に自動的に制御するモード)、及びレートホールドモード(アーム先端の動作速度を一定範囲内に制御するモード)を併用して行った。作業結果(ロボットアーム先端における発生力の変動、及びロボットアーム動作軌跡の変動)は、2回目がはるかに良好であった。なお、コンプライアンス制御や力追従制御等のロボットアーム先端の発生力を制御するモード無しでは、本実験の様な作業を行うことは殆ど不可能である。本実験を通じて、ETS-VII搭載ロボットアームの力覚制御機能の有効性、及びオペレータと自動制御系が必要な仕事を分担して与えられた作業を実行するShared Control の有効性が確認された。これらはスペースシャトルのマニピュレータには無い機能である。
遠隔操作ロボット/テレビカメラを使用した衛星搭載実験機器の目視検査
テレビ画像を用いた機器等の目視検査では、カメラの視線方向、すなわちロボットアームの位置・姿勢が遠隔操作で自由に変更できることが重要である。また、その際にロボットアームが不用意に他の機器に異常接近したり衝突したりしない様に、自動的にロボットアームの動作状態を監視しておくことが必要である。今回の実験では、ロボットアームと他の機器との衝突の可能性の有無は地上のロボット実験運用設備、及び衛星搭載のロボット制御用計算機でリアルタイムでチェックされており、オペレータは遠隔操作に専念することが可能である。本機能(他の障害物との衝突の有無の自動監視)もスペースシャトルのマニピュレータには無い機能である。
ロボット実験運用の自動化/省力化
ETS-VIIのランデブドッキング実験、ロボット実験の操作の大半は、電子的に作成・保存された手順書(電子手順書)を使用して行われ、衛星への指令、衛星からのテレメトリデータのチェックは電子手順書により自動的に行われている。本制御モード(自動操作モード)ではオペレータは自動的な進行をモニタしたり、事前に設定してあるチェックポイントにおいて手順の一時停止、あるいは続行等を指示するのが中心となる。本機能により、ETS-VIIのランデブドッキング/ロボット実験に係る指令の大半が自動的に送出可能となっている。一方、遠隔操作時には、電子手順書により必要な準備が自動的になされた後に、ハンドコントローラによる操作指令モードとなる。これらの電子手順書を使用した自動操作は、スペースシャトルのマニピュレータや、一昨年スペースシャトルの貨物室で実施されたMFD(マニピュレータ飛行実証試験)、JEMRMS(宇宙ステーション日本実験モジュールマニピュレータには無いETS-VII独自の機能であり、実験・運用の自動化/省力化の面で非常に有効である
自動操作中(指令は電子手順書に従い自動的に送出される) 遠隔操作中(左手はアーム先端の並進速度を制御) 右手はアーム先端の姿勢角速度制御
遠隔操作開始(表面のなぞり作業) 右下は遠隔操作支援情報表示画面 遠隔操作中(遠隔操作支援情報、衛星からの映像等を見ながら操作している)

(3)各機関の実験結果

若田飛行士が参加してのETS-VII搭載ロボットアーム遠隔操作実験はNASDA以外にも、NALのロボット実験運用設備、及びCRLのロボット実験運用設備を使用して以下の実験が、それぞれの機関により行われた。詳細な実験結果の評価・公表は各機関より行われるため、ここでは実験内容の概要のみを示す。

(a) NAL(航空宇宙技術研究所)の実験
ETS-VII搭載ロボットアームを遠隔操作して、NALのETS-VII搭載実験機器であるトラス構造物遠隔操作実験装置を操作する実験(展開された状態のトラス材を折り畳み収納する実験)が若田飛行にの遠隔操作により行われた。遠隔操作による作業は正常に終了して、トラス構造物は予定された時間内に収納を完了した。
収納作業開始 収納作業の途中 収納完了

(b) CRL(郵政省通信総合研究所)の実験

CRLの実験では、CRLのロボット実験運用設備からの自動操作によりCRLの搭載実験機器(アンテナ結合機構基礎実験装置)の脱着操作を行う際に、熟練した操作者(若田宇宙飛行士)は操作卓のディスプレイ等のどこを見ているかの視線の動きの評価、及び異常発生時に自動的に発せられる音による警告の有効性を評価する実験が行われ、それぞれ貴重な実験データが取得された。

実験中に若田飛行士は運用設備のどこを
モニタしているかの計測の様子
正面の画面には実験の進行ステータスが、
右側にはロボットの手先カメラからの映像
CRLの実験の様子(搭載ロボットアーム
によるCRL実験機器の把持)